Ⅲ章　マウスを用いた放射線影響の研究

Ⅱ・２・４トリチウムβ線の相対的生物効果比RBE

　トリチウムのβ線の線エネルギー付与LETの飛跡平均Ｌ（図Ｉ・１・１参照）は5.5keV/μである　１）。相対的生物効果比RBE（Ｉ‐３・２参照）を計算する場合の標準に便う60-Coγ線のＬ値は0.3keV/μである（図Ｉ‐１１）から、³Hβ線のRBEは１より大きいと推定される。文献によって、³Hβ線のRBEの値を総括すると表Ⅱ・１のようになる。

　　　　　

Furchner,J.E : Radiat. Res. 6 (1957) 483-490;
Storer,J.B. et al. Radiat. Res .6 (1957) 188-288
Lambert, B.E : Health Phys. 17(1969)547-557
Dobson,R.L. &Kwan, Z.C ; Radiat.Res.66(1979)615-625
Dong,J.Z. and Xingyan,Z.C. : Radiat.Protect.5(1985)123-127
Satow,Y. et.al Int.J. Radiat.Biol 56(1989)293-299
Bedford,L.S. et al Radiat Res 63(1975) 531-543
Ueno,A.M. et.al. Radiat. Res. 91(1982)447-456
Lemotte,P.K & Little,J.B. :Radiat.Res.95 (1983)359-369

　表Ⅱ・１から、³Hβ線のRBEは約1.5くらいだろうと推定される。ただし、この表はRBEの値が1.1から2.7まで変動することを示している。このひろい変動幅は、単純な実験的誤差の幅の反映だけではなくて、比較の対象に選ぶ生物効果のレベルによって変動する（Ｉ章３節1項参照）という本質的間題点を含んでいるので、注意が必要である。
　図Ｉ・１・１のマウスの致死または胸腺・脾臓の重量低下（萎縮）に対するRBE対LETの曲線にそって、14MeV中性子のRBE値から、LETが5.5keV/μの³Hβ線のRBEを推定すると、約1.3になる。