この発がん予測データは広島疫学データをもとにつくられたもので、しきい値なし直線仮説（LNT）をそのまま適用すれば、医療放射線被ばくの線量と件数を当てはめて　このような予測になる、という内容です。新聞報道では　ランセットの論評部分には触れていませんが、この論文には批判的な内容です。
　有名な学術雑誌に掲載された内容なので、これがすなわち正しい情報と捉えるのはどんなものでしょうか。ネイチャーを始め一流の学術雑誌に、　いっぽうでＬＮＴを論難する論文や放射線ホルミシス仮説を実証する論文が掲載されているのに、こちらのほうはマスメディアは見向きもしません。

　ところで、なぜこのような情報が大手新聞の朝刊トップで報道されたのか・・？不思議に思うところです。
①ニュース・ソースとして編集部がこの情報を見つけ、放射線の専門家に意見を求めたが、社の報道姿勢に近かった某医科歯科大学S教授や札幌医科大学X教授のコメントを採用した。
②ランセットの論文を読んだLNT信奉の放射線防護学の方が記事にしてもらいたくてマスメディアに情報を伝えた。
以上が思いつきました。実態はどちらでしょうか・・・。

　この報道で問題だと感じた（いたずらに放射線を怖がらせる情報、正しく放射線を理解されない情報、医療放射線の利用が忌避される風潮）点は、放射線の被ばくの説明を放射線防護学の見地やLNTのみで説明してしまったことだと思います。放射線防護の考えは放射線の扱いの社会的取り決めや管理目標など、放射線を扱ううえにおいて基本的な考え方になりますが、結果説明（被ばくの影響）については役不足です。また健康影響の説明根拠（リスク仮説）は他にもありますので、これらについても説明しなければならないでしょう。つまり、LNTの場合では仰せのとおり3.2％の発がん増加予測になるだろうが、しきい値存在仮説の場合には無害量の説明になるし、ホルミシス仮説の場合には発がん増加どころか”至適線量”で健康に良いという説明になります。

　何年かに一度くらいの割でこの手の情報が流布されて（この前は小児の頭部Ｘ線ＣＴで発がん増加）、医療放射線の現場を困惑させているのは困ったもんだと思います。