ポロニウムについて

 

１．　起源

1898年Curie夫妻はピッチブレンドから、硫化ビスマスとともに分離される部分に金属ウランの数百倍の放射能を持つ物質を発見した。これがポロニウムである。Curie婦人の祖国ポーランドにちなんで「ポロニウム」と名付けられた。

 

２．　自然の存在量

ピッチブレンド鉱石1トン当たり0.1ｍｇ以下存在している。

食物の中にもK-40の1/100程度、人体の中にもK-40の1/200程度含まれて

いる。

表1　食物中の放射性核種

アイソトープ	放射能（Bq/kg）
K-40	0〜23000
Pb-210	0〜50
Po-210	0〜230
Ra-226	0〜2

出典：ATOMICA,渡利一夫、稲葉次郎（編）：放射能と人体、

研成社（1999年6月）ｐ45

 

表2人体中の放射性核種

体重60kgの日本人の場合

アイソトープ	放射能(Bq)
K-40	4,000
C-14	2,500
Rb-87	500
Pb-210・Po-210	20

出典：ATOMICA,科学技術庁資料：「生活環境放射線」、

（財）原子力安全協会

 

３．　ポロニウムの物理的性質

融点： 527K（254℃）

沸点：1235K（962℃）

常温で固体。

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４．　ポロニウムの同位体

　　ポロニウムには以下の7つの同位体がある、全てα放射体である。そのため、X線やγ線検知器には作動しない。

表3　ポロニウムの同位体

核種	壊変系列	壊変型	半減期
Po-210(RaF)	ウラン系	α（γ,e-）	138d
Po-211(AcC’)	アクチニウム系	α（γ）	0.52s
Po-212(ThC’)	トリウム系	α	3.0×10-7ｓ
Po-214(RaC’)	ウラン系	α（γ）	1.6×10-4ｓ
Po-215(AcA)	アクチニウム系	α(〜100%)	1.78×10-3ｓ
Po-216(ThA)	トリウム系	α	0.145ｓ
Po-218(RaA)	ウラン系	α(99.98%) β―(0.02%)	3.05ｍ

      出典：木越邦彦著、放射化学概説、培風館、ｐ250、昭和51年10月

核種欄のカッコ内はそれぞれの壊変系列内の位置を示す.

 

５．　ポロニウムの生産

ポロニウムは天然に極く僅か存在するが、産業として必要な場合にはRI生産炉または研究炉でBiに中性子を照射して生産する。

Bi-209（ｎ,γ）Bi-210

　　ここで発生したBi-210がβ崩壊してPo-210となる。

 

６．　ポロニウムの利用

1）            平和利用

Po-210はポロニウム同位体の中で一番長い半減期（138日）を持っており、放射崩壊のために熱を放出する。1ｇのPo-210のα線は140Wの熱を発生するので、この熱を動力源として利用した。宇宙衛星コスモスに搭載したオリオンー1の動力源はPo-210であった。

また、ポロニウム同位体はγ線が無く、α線だけなので、周辺の組織を破壊せずに、Po-210を吸着した組織のみを破壊するので、局部照射の医療に利用されている。

2）            軍事利用

初期には原子爆弾の中性子点火装置として使用されていた。金メッキされた球殻状のベリリウムの中に金メッキされたポロニウムが爆弾の中央に保持されている。　曝縮で金属が破壊され、Po-210から発生したα線がBeに照

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射されると中性子を発生するので、核反応を点火・促進する。

Be-9（α, ｎ）C-12

　　ただし、Po-210の半減期は138日と短いので、その後はPo-210と同様な働きをするRa-226（半減期1600年）が使用されているようです。

（http://citizen-science.cocolog-nifty.com/blog/）

 

７．　ポロニウムの毒性

ポロニウムは47ｎｇ（1億分の4.7ｇ）で50％致死線量（4Sv）と極めて毒性が高い。ただし、α放射体なので、外部被爆は考えなくて良い。内部被爆及び排泄物による汚染を管理する必要がある。

○旧ソ連邦のα型原子力潜水艦

旧ソ連邦ではα型と言う攻撃型原子力潜水艦を開発した。この原子力潜水艦は当時世界で最も小さく船殻はTi製で、潜航深度は700ｍ、水中速度は40kn（ノット）で当時としては最高のものであった。原子炉にはPb-Biを冷却材とする原子炉を搭載していた。そのため、潜水艦としての性能には優れていたが、原子炉の保守及びBiに基づくPo-210の汚染の問題があった。

（Jane’s Fighting Ships,1997年版）

○最近のニュースに関連して

純粋の「ポロニウム」で他の核種の共雑物が無く、完全に密閉されていれば、外部被爆や放射能汚染は考えられない。汚染検出の詳細が発表されなければ、真実は判らない。

 

 

H18/11/28

神山弘章

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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