 （ナガセ ランダウア NLだよりから） |
放射線の影響がわかる本 金子正人 放射線の浴ぴすぎが有害なことはＪＣＯでの臨界事故や広島・長崎の原爆の影響などからよく知られています。では、少なすぎる放射線の影響はどうでしょうか。日常の放射線をしやへいして生物の成長が阻害されたという実験結果があり、また、住む場所の放射線レベルの異なる集団を比較した調査では、放射線を多く受けている集団の方がより健康で、がんも少ないとしばしば報告されています。 生命は誕生した３０数億年前から、人類も５００万年前から自然放射線を受け続けていますが、遣伝子ＤＮＡにとっては、太陽からの紫外線と植物の光合成で発生した酸素が二大毒で、生命の進化の過程でそれらに対する巧妙な防御機構を持つようになっています。これらが放射線に対しても有効であったと考えられ、ヒトに放射線を感じる器官が備わっていないのは、自然放射線レベルの変動程度の放射線を、進化は有害と考えなかったからかもしれません。 （１９９６年初版、２０００年増補改訂）のタイトルです。本書は、放射線の健康影響をわかり易く解説した読み物がほしいという要望にこたえたもので、初めに、がんとは何か、遣伝とは何かといった素朴な疑間からマスコミを騒がすトピックスにいたるまで、各分野の専門家に、現在の知見に照らして最も妥当な答えを６００貢の資料にして頂きました。これをもとにジャーナリストの協カも得て、イラストの豊富なＡ５版１９０頁の小冊子にいたしました。ＩＣＲＰは、：人が受ける放射線の線量は、できるだけ少なくしておく方がより安全であるという立場から、発がんや遺伝的影響については、「しきい値がない」と仮定して放射線防護の基準を勧告しています。放射線による「リスク」が、無視しうるほど些細なものであることを数量的に示すことで安全性の埋解が得られるということが前提となっています。本書でも、作業者が毎年５ｍＳｖを愛ける場合の「リスク」を図示していますが、「しきい値がない」と仮定して計算してみた結果だと説明しても、一般には、やはり「放射線はこわい」と受け取られるのではないでしょうか。 現在では、放射線により損傷を受けた細胞ＤＮＡの修復、アポトーシスによる異常細胞の排除、免疫機構など生体防御の仕組みが明らかにされつつあります。実際、２００ｍＳｖ以下というような低い線量では、がんによる過剰死亡の発生は明確ではなく、遣伝的な障害については、原爆被ばくのような高い線量でも影響は見られていません。昨年、英国の放射線医学雑誌に発表された英国放射線科医の１００年に及ぶ追跡調査の結果では、放射線防護に注意が向けられるようになった１９２１年以降、放射線科医のがん死亡率は低下し、１９５５年以降は一般臨床医よりもむしろ低くなっています。がん以外の病気については、１年間に１Ｓｖもの被ばくを愛けていたと推定される初期の放射線科医でも一般臨床医より死亡率が低く、放射線ホルミシスと解釈する人もいるほどです。「直線しきい値なし」仮説が、放射線恐怖症を助長し、必要以上の規制強化と資源の浪費をもたらすことから、放射線防護は、「実際的なしきい値」（それ以下では、検出可能な発がんあるいは遺伝的障害の増加が起こりそうもないレベル）に基づくべき、との認識が広まりつつあるようです。 巻頭言（初版）で、熊取敏之埋事長（当時）は、「医師は医師の立場で考えたことを、患者に対して患者の言葉で説明する必要があり、放射線・放射能についても同様のことが言える」と述べておられます。協会のホームページ（www.rea.or.jp）では、本書の全文を公開しておりますので、昔様から忌揮のないご意見、ご叱正を腸り、人々が「放射線を正当に怖がる」ような教材作りに反映させて頂きたいと考えております。  （放射線の影響がわかる本 ⇒ 目次へ）（ナガセNLだより No.297） 平成14年9月 （財）放射線影響協会常務理事 |